硬膜外麻酔(epidural anesthesia)

 脊椎管の硬膜外性に局麻薬を注入して得られる麻酔を硬膜外麻酔という。 局所麻酔を硬膜外腔に注入して脊髄神経を麻酔し、無痛と筋弛緩を得る方法である。epidura1.peridural.extradural anesthesiaなどとよばれている。近年とくに目立った利用法としては、硬膜外麻酔によって手術部位の無痛と筋弛緩を得て、これに浅い全身麻酔を行って睡眠をもたらし、同時に呼吸管理、さらに術後の疼痛対策に役立てようと広く用いられている。

 作用部位については、

 1)硬挨外膜を通過する神経根およぴ脊髄神経に作用、
 2)椎間孔のところで脊髄神経に作用
 3)局錬薬が硬膜・くも膜を透過してくも膜下腔に到達。
  神経根およぴ脊髄表面に仰臥など諸説があってはっきりしない。

 脊柱麻酔と同様に運動、知覚、自律などの神経線維が麻酔されるが,脊麻よりも分節麻酔(segmental anesthesia)や分離麻酔(または選択的麻酔:differential anesthesia)が容易である。

 局麻薬注ルート(穿刺部位)も頸椎から仙骨裂孔に至る広範匪にわたっているが、腰部硬膜外麻酔が最も多用される.

1)解   剖

         硬膜外腔の容積

 脊椎管(spinal canal)内面の骨膜およぴ勒帯と硬膜との間のスペースを硬膜外腔(epiduralspace)という。頭側端は頭蓋の大後頭孔縁で終わり、尾側端は仙骨裂孔にある仙尾靱帯である。

脊椎硬膜外腔に大量の局麻薬を注入しても、薬液が直接頭蓋内に侵入することはない。

 くも膜下肢はS2で終わっていて、仙骨管のS2から仙尾靱帯までは硬膜外腔である。 硬膜外腔は腹側(前方)は狭く,背側(後方)が比較的広い。また、上(頭側)で狭く、下(尾側)で広い。背側の深きは腰椎部で5−6mm、胸椎上部で2−3mmである。硬膜外腔には血管、神経根、脂肪、結合組織から成るスポンジ様組織がある。注入局麻薬はスポンジに水がしみ込むようにひろがっていく。 

 解剖のポイント


 硬膜外腔の上端は大後頭孔から始まり,下端は仙骨鞍帯で終っている。その内壁は硬膜で外壁は黄鞍帯である.側方は椎間孔となり,硬膜は硬膜鞘、神経鞘となる。前方は後縦鞍帯と密着しているために腔としては存在しない。硬膜外腔の広さは図1のごとく、側方と後方が大部分で尾側にいくほど広い。硬膜自体の厚さは逆に頭部で厚い。 硬膜外腔は陰圧となっており、胸部、頚部、腰部、仙骨部の順で強い。腰部以下では陰圧がはっきりしないことがある。この陰圧の成因については、胸艦内圧による、穿刺針が硬膜をテント状に伸展するために生ずるなどが考えられている。    血管は弁のない内推骨静脈叢があって奇静脈に達する、胸腔や腹腔内圧が上昇すると椎間静脈を経て下大静脈血が流入する。このほかこの腔には多胞性の脂肪組織がはいっている。

 2)種類


(1)穿刺部位によつ頸部、胸部、腰部、仙骨部硬膜外麻酔などに分けられる。仙骨硬膜外腔へのアプローチは、仙骨裂孔を経由する仙尾ルート(caudal route)と後仙骨孔を経由する縫仙骨ルート(transsacral route)とがある。(2)1回注入法と持続注入法とがある。持続法は注入ポンプなどで連続的に注入する三方法と、投与スケジュールに従って分割注入する方法がある。

 3)生理


 脊椎麻酔に比して大量の局所麻酔薬を用いるが,投与された薬物は脳脊髄液中のように容易に移動できず、希釈もされにくいために、分節、分離麻酔が容易である。

1)作用部位:明確ではないが,おもな作用部位として,硬膜鞘(dural sleeve)を通じて神経根ブロックが生ずる、硬膜を通じて脊椎麻酔となる。傍脊椎神経ブロッ クが生ずるなどが考えられているが、これらの総合したものとも考えられている。 麻痺の順序は脊椎麻酔と変わらない。脊樵麻酔との比較を表1に示す。

2)中枢神経系への影響:局所麻酔薬を大量に用いるため、血中に移行したものが中枢に達したときに中寺作用を呈する。大量注入時に一時的に脳圧が上昇する。

3)循環器系に対する作用:本質的に脊椎麻酔と同じであるが、分節的で作用の発現が緩徐である。

4)呼吸器系に対する作用:これも分節麻酔のため、頚部と腰部では作用の差は明らかであり、さらに使用局所麻酔薬の濃度による差も明らかである。

 5)消化器、肝、腎に及ぼす作用:脊椎麻酔と同じ血管は弁のない内推骨静脈叢があって奇静脈に達する、胸腔や腹腔内圧が上昇すると椎間静脈を経て下大静脈血が流入する。このほかこの腔には多胞性の脂肪組織がはいっている。

脊椎麻酔と硬膜外麻酔の比較

 主な相違点を表にすると

  脊椎麻酔 硬膜外麻酔
手技 比較的容易 やや難しい
使用薬剤量 少量(1-3ml) 大量(10-30ml)
使用発現時間 短い(1-3分) 長い(5-15分)
使用持続時間 長い 短い
麻酔効果 完全 不完全になりがち
筋弛緩 良好 不完全になりがち
分節麻酔 困難 容易
分離麻酔 困難 容易
血圧低下 急激、高度になりやすい 緩徐、軽度
呼吸抑制 完全麻酔になり得る 完全麻酔はない
悪心嘔吐 多い 少ない
局麻中毒 ない 起こりうる
術後頭痛 5-20%におこる ない


分節麻酔
                                   
注入部位、薬剤量の選択によって必要とされる数分節に限局された麻酔

分離麻酔 
                                  
薬剤濃度の選択によって、必要によって交感神経のみ、または交感・知覚神経を遮断して運動神経を残すことができる。


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